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  • 大人向けの童話、ムーミン世界の奥深さ
    2018.1.10大人向けの童話、ムーミン世界の奥深さ

    今、ムーミンが人気です。アニメにグッズ、専門のショップやカフェまで登場しました。独特のフォルムが愛らしいムーミンと、その仲間たちも魅力的です。しかしムーミンの小説は、読んだことがない方も多いのではないでしょうか。原作である小説の中には、童話と呼ぶにはあまりに奥が深いムーミンワールドが広がっています。

    始まりの「ムーミン谷の彗星」

    ムーミンシリーズの原点としては、「小さなトロールと大きな洪水」が最初に執筆されました。しかし、多くのメインキャラクターたちが登場するのは「ムーミン谷の彗星」からであり、この本から彼らの物語が始まったとも言えるでしょう。主人公のムーミンが個性的な仲間たちと出会い、共に旅をして友情を育みながら切磋琢磨するという冒険物語は、後に紹介する二作に比べれば子ども向けです。しかし作中には、もうすぐ地球に衝突予定の彗星という、大きな脅威が存在し続けます。彗星に怯える人々の描写がリアルで、また禍々しい彗星の挿絵が非常に印象的です。ムーミンたちは様々な困難にぶつかりながらも、前を向いてムーミン谷を目指し続けます。逃れられない災害に直面した時、私たちはどのように恐怖と向き合い、どのように生きればいいのか、という問いを投げかけられているかのようです。

    別世界の「ムーミン谷の冬」

    いつもにぎやかで楽しいムーミン谷の、冬の間のまるで別世界のような姿に、偶然冬眠から目覚めてしまったムーミンだけでなく、読者の私たちも不安感を覚えます。一日中暗くて寒々しい白夜は、作者のヤンソンが実際フィンランドで目の当たりにしていた世界なのでしょう。冬という未知の環境の中でムーミンは、傷ついたり葛藤しながらも、春を迎えるまでに多くのことを学びます。中でも注目したいのは、冬の世界でムーミンが出会った、気難しい生き物たちです。彼らは、多くの生き物が冬眠している冬の間しか姿を現さない、どちらかと言うと「日陰者」的な存在です。その陰気でシャイな性格に、ムーミンは最初戸惑いますが…よく考えると、人間社会にもそういう人たちって居ますよね。やがてムーミンは彼らの生き方に理解を示すようになりますが、ヤンソンが「日陰者」たちに寄り添う優しい目線、繊細な心を持っていたことが、この物語からよく分かります。

    重すぎる「ムーミンパパの思い出」

    この物語は、もちろん子どもが読んでも十分楽しめますが、物語中の様々なエピソードやキャラクターの心情をより理解できるのは、大人の方ではないかと思います。ムーミンパパの思いつきでムーミン一家は住み慣れたムーミン谷を離れ、海の上の小さな島で暮らし始めます。不便で過酷な生活を強いられる中での、それぞれのキャラクターたちの悩みや苦しみは、時に重すぎると感じてしまうほどです。ムーミンがモランやうみうまとの交流を試みる場面では、他者と分かり合う難しさ、すれ違う悲しさが滲み出ています。少年ムーミンは色々な出来事を経て精神面で大きく成長するのですが、それはおそらく誰もが思春期に通る道であり、読んでいて感慨深いものがあります。大人であるムーミンパパやママも、この物語ではかなりエゴむき出しな言動が多いのですが、同じ大人ならば思わず共感してしまうでしょう。

    物語を支えるキャラクターたち

    小説は全九作品で、どれもヤンソン自身の挿絵付きなので、文章だけでなくイラストでも楽しめます。ヤンソンが生み出したキャラクターたちは、愛らしい姿形だけでなく、それぞれ性格もユニークな者ばかりです。時に物語が厳しく暗い展開を迎えようとも、あのようなキャラクターたちだからこそ、何とか乗り越える力があるのでしょう。