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  • 日記という日常の連続から垣間見える、作家の人間性
    日記という日常の連続から垣間見える、作家の人間性

    小説、紀行文、エッセイ、詩集など本の種類は多岐にわたりますが、日記というジャンルもその中の一つと言ってよいかもしれません。出版されている時点で人に読まれることを想定して書いているとはいえ、いわば個人的なものでもある日記。日常の連なりの中で発せられる言葉の中に著者の本質が垣間見れるようで興味深いです。

    山荘での日々がつづられる「富士日記」

    多くの人が教科書で一度くらいは武田泰淳という作家の名前を目にしたことがあるのではないでしょうか。そしてその妻である武田百合子さんが書きつらねたのが「富士日記」です。富士山のふもとに立てた山荘で過ごした日々についてたんたんと、時には鋭い感性で感じたことを表現しているのですが、その描写のこまかくもユーモラスなこと。夫である武田泰淳との会話のやりとりや、買い物先の店主とのやりとりなど、ひとつひとつの言葉じりや方言などもそのままに書き記されているので、読んでいるうちに臨場感も高まり、その光景が目に浮かんでくるようです。日記なので日付と天気が記録されていて、気分が乗らない時はほぼそれだけですまされているのですが、逆に印象に残るエピソードについては自分の個人的な感想なども交えながらひょうひょうと長文で語られています。そのさまがなんとも面白おかしくつい読み進めてしまうのです。毎日の献立が書いてある点もこの日記のひそかな魅力かもしれません。知らず知らずのうちに毎日のお味噌汁の具を楽しみに追っている自分に気づいたりするのも一興です。日記の終盤はなんとも物悲しくも切ない気分にさせられる部分もありますが、それだけ読書を通してこの日記に寄り添ったということの証ともいえるでしょう。

    「つれづれノート」ではリアルタイムに半生にキャッチアップ

    詩人、銀色夏生というと、ふとした瞬間をとらえた美しい写真とともに語られる印象的な詩の数々を思い浮かべる人も多いことでしょう。楽曲の歌詞を書くことでも知られている銀色夏生さんですが、実はライフワークとして「つれづれノート」という日記を出版しています。30巻以上にもわたるこのシリーズは、長年にわたり多くのファンの心をとらえています。二度の結婚と二度の離婚を経験し、それぞれの結婚生活の中で授かった子供たちとの日常生活。自分が住みやすいよう、自分好みにデザインした地元宮崎の家での日々や、たびたび出かける国内旅行や海外旅行。仕事を通して感じたことからハマっているテレビや本の感想まで、プライベートの写真もまじえながら等身大の姿でいろいろなことを語ってみせてくれます。秀逸なのが家族とのやり取り。とてもユニークな実のお母さんとお兄さん、個性のある娘さんとマイペースな息子さんなど、家族の存在がこのシリーズをより一層面白いものにしているといっても過言ではありません。シリーズの第一巻では独身だった著者ですが、子どもも成人してしまうほど月日を経てなお、今もリアルタイムでその人生の一端を垣間見れるという点でますます見逃せません。

    小さな日々の積み重ねの中にこそにじみ出るその人らしさ

    ダイナミックなストーリーの長編小説や、テーマをしぼった紀行文なども面白いですが、日々の小さな出来事やちょっとしたニュースを通して感じたことなどをつづっている日記の中には、著者の普段からの考えや感じ方がにじみ出ていてとても滋味深いものがあります。ハッとさせられるような鋭い感性を発見できるとともに、作家という特別な存在であっても私たちと同じようにくだらないことで笑ったり泣いたりしているんだということも伺い知れて、とても味わい深い日記の世界。一度体験してみてはいかがでしょうか。